名前はシェルバッグ
かごが大好きでいくつもお持ち、という方はたくさんいらっしゃるかと思います。この特集担当もそのひとりでついつい「かわいい」「きれい」とそそられて購入。数は増える一方で既に一生分を所有している気がします。しかもかごは収納しづらいのでもう増やすのはやめよう、と思っていました。ですが、これを見たとき、欲しいと思わずにいられませんでした。見たことのない造形で、きりっとしていて、しかもぺたんこになるなんて! 春夏のa.の服にも、ゆかたにも似合いそうです。
この竹のかごには「シェルバッグ」という名前がついています。半分に折り畳まれた状態から左右に開き、両手を持ち上げるとぷっくり立体的になる様子は二枚貝と似ています。そしてなるほどかご、というよりバッグのイメージ。つくり手は大分で竹を使ったものづくりをしている
「おじろ角物店」の小代正さん、美穂さんご夫妻です。
「自分のものにしちゃいました」
大橋がシェルバッグに出会ったのは1年半ほど前のこと。小代さんたちがなさっていた展示会でみつけて「すごーい」と感激。すぐに制作をお願いしたそう。
「その時は(デザイナーの)ダニエラさんにさしあげたいと思ったんですが、できあがって届いたのを見たら自分で欲しくなっちゃって。まだあげてません(笑)。いけませんねぇ」と大橋。でもその後クールダウンしてお願いしたのです「京都で展示会をさせてください!」。
魅力的かつ謎を秘めたバッグ
シェルバッグは小代さんのオリジナルではなく、復刻版です。もとは昭和20年代から40年代にかけて輸出用として九州を中心につくられたもので、当時アメリカやヨーロッパで人気を博したようです。近年ヴィンテージアイテムとして海外で再注目され、日本のバイヤーも買い付けてお里帰り。セレクトショップやアンティークショップでちらほら見かけるようになりました。小代さんたちは4年ほど前、知り合いの方経由でこのバッグを再現して欲しいと依頼を受けたそう。依頼主がアメリカで買い付けてきたというシェルバッグを目にして正さんは
「かっこいいなぁ、いやらしいぐらいにかっこいいと思った」と言います。
「特に魅力的なのは横から見た時のフォルムやぺたんこになったときのいさぎよさですね。折り畳む方式は輸出用に考えられたんじゃないでしょうか。でも日本人の発想にはないデザインだと感じました。竹ひごが集約する芯のコアな感じは日本人離れしていますし、その一方で意外とシンプルな構成でしょう。日本の職人なら凝ってしまうんじゃないかな」。
小代さんたちが資料として見た中にシェルバッグがフランス人デザイナー、シャルロット・ペリアンとともに写っている1953年の写真もありました。
「彼女がデザインしたのかな~と想像するとわくわくしますよね。でもほんとうのところはいまだわからないまま。どなたかご存知の方がいらしたら教えて欲しいです」。
わくわくするだけでなく正さんは思い出したこともありました。
「これ、僕の師匠の家にもあった!って。聞けば師匠もつくっていたそうなんです」。
火曲げの技
正さんが、地元の師匠について習ったのは明治以前から伝わる「角物」づくりの技法。「角物」は文字通り四角形の竹細工で、『編む』というより『組む』作業を積み重ねてつくっていきます。収まる位置によって長さもかたちも幅も厚みも異なる竹ひご、持ち手、底を支える力竹など、たくさんの種類のパーツを仕立てて組むのですが、なかでも独特なのが「火曲げ」という技法。
「竹を長時間火であぶって曲げて行き、タイミングを見計らって水につけて戻らないようにくせをつけるんです。シェルバッグは胴体がアール状の竹ひごを糸でつなげてつくられていますが、このアールは火曲げを上手にいれないとできないんです」。
確かに角物は組まれた竹ひごどうしが支え合うからまだ型がキープされそうですが、シェルバッグの竹ひごは1本1本独立している。火曲げが不完全で戻ってしまったり、不揃いだったりでは台無しです。
「火曲げは難しくて、修行中も師匠に相談すると『竹に聞け』って言われてしまう(笑)。うまくできるようになるまで時間がかかりました」。
技術とセンス
自分たちが復刻の話をいただいたのは、職人さんが少なくなっているから、といいますがそれだけではないと思います。シェルバッグを再現する過程で、持ち手を逆につけたほうが使い勝手がいいのでは、と試作してみたり、糸の色を服にあわせやすいグレーにしたり。小代夫妻の手仕事には今の時代を素直に取り入れるセンスや、それでいて個性を売り物にしない気がまえが生かされているように思います。
「巡り巡って僕がシェルバッグをつくっているという話を師匠にしたら、すごく喜んでくれました。自分もやりたいと思っていたけれど、もう力がなくてできないでいた、と。それを聞いた時は嬉しかったですね」。